植樹フィールドは今『涵養記(三井寺編) 第2話「焚き火、竹、すすき、そして人」』


 

 

 

 

 

 

 

 

 
 
【 涵養記(三井寺編)  第2話「焚き火、竹、すすき、そして人」 】
 
梅雨時の雨の力を受けとめたら、次にやってきてくれたのは火の力(焚き火)と人の力(下草刈りと土中改善)だった。先月12月に行った三井寺境内一角の竹やぶ手入れから、すでにまとまった竹を調達済みであった私たちは、それらの竹を燃して焚き火をし、出来上がった竹炭を苗木のまわりの土に埋めてみた。炭には、土中の環境を改善する一定の効果がある。土が善い状態でなければ、せっかく植えた苗木たちも元気には育ってくれない。
 
すすきやその他の雑草を刈った上、苗木の脇の土を少し掘り、牛糞を含む肥料や竹炭を埋めるとともに刈ったばかりのすすきも活用して穴の隙間を補う。この作業により、土中の菌たちが「醸し出す」生態系(土中環境)は、たちまち変化を開始する。活着したばかりの赤ちゃん苗木たちが、さらに根を健やかに広げられるよう人が少しだけ手を施してあげるということだ。
 
技術指導を引き受けて下さっている庭師の吉野さんはこう言う。
「苗木たちをあんまり過保護にするのもよくないが、最低限の手入れを人がやってあげることは大切なことなんです。」
なるほど、そういうことか。もはや現代の森の多くは、復元再生するために人の手を必要としている状態。一言で言えば、バランスを欠いているということ。今や森を完全な自然治癒に委ねることなどできる段階ではない。荒廃の著しいホットポイントにおいては不可逆的とも言える瀕死の状態である。確かに何十年あるいは、何百年もかけて人が荒廃させてしまった森たちをパッと魔法でもかけるかのように、しかもオートマティックに一瞬で蘇らせることなどできるはずはない。これはバーチャルではない現実の森で起きていることなのだから。絡まった糸をゆっくりとほぐしてゆくかのように、やはり人の力でなんとかひとつずつもつれを解いてゆくしかないのだろう。人が自ら動き出さない限り、きっとこれからも事態は複雑に絡まり続けたまま、森は荒廃の一途を辿るであろう。たとえゆっくりでもかまわない、変化そのものと変化のつくり手が、あらゆる分野から着実に顕在化することを心から願う。
 
さて、この三井寺みんなの森に生きる土中の菌たちは、まるで腸内フローラのようにこれからも善い活動を継続してくれるのだろう。この「土中内フローラ」が今後どのような展開を見せるのか、これからも私たちの試行錯誤は続く。この試みには、まだ仮説に基づく試験的実践も含まれているかもしれない。でもまずはやってみなければ本当のことは何もわからない。いつも技術や文明の進歩に至るプロセスとは、飽くなき仮説追及とその実践の連続なのだから。
 
そう、まるで人類が初めて火を起こしたあの時のように。
 
 
【投稿者】
 松田卓也(アースフォレストムーヴメント)
 
【投稿日】
 2022年1月18日(実施日:1月16日)
 
 
【涵養記(三井寺編) アーカイブ】
・第1話「雨の力」(2021年7月3日 投稿)
https://earth-forest.jp/news/blog/%e6%a4%8d%e6%a8%b9%e3%83%95%e3%82%a3%e3%83%bc%e3%83%ab%e3%83%89%e3%81%af%e4%bb%8a%e3%80%8c%e6%b6%b5%e9%a4%8a%e8%a8%98-%e4%b8%89%e4%ba%95%e5%af%ba%e7%b7%a8-%e7%ac%ac%ef%bc%91%e8%a9%b1%e3%80%8d/